- 食ノコト菓子工房
- 白石めぐみさん
- 中医薬膳士。本草薬膳学院 福岡校通学コース卒業。2021年3月より自宅に「食ノコト菓子工房」を開業。繊細で美しく、体が喜ぶ季節の養生お菓子が注目を浴びています。
STORES https://shokunokoto.shop/
「まずはできることから」。そう思いつき、自宅の庭に小さなアトリエを作ったのは2021年。管理栄養士の仕事を経て、薬膳の考え方を取り入れたお菓子を手がける白石さん。薬膳を学んだきっかけや、お菓子作りに込めた思いについてお話をうかがいました。
Contents
お菓子作りや管理栄養士の経験から広がった薬膳への興味
お菓子作りを始めたきっかけを教えてください。
幼少の頃から、お菓子作りが好きでした。作ったお菓子を食べることよりも、お菓子を作ること自体が好きで、バターと砂糖を合わせてバタークリームを作ったり、卵白を泡立ててメレンゲを作ったりする工程が楽しくて仕方がありませんでした。
楽しみながら作ったお菓子を家族や友人に振舞うと、笑顔でおいしそうに食べてくれました。私が作ったお菓子を囲んでテーブルに座り、ていねいにいれたお茶やコーヒーとともにゆっくりと味わう。「なんだか夢のような空間だなぁ」と幼心に感じていました。
正直なところ、私には経歴といえるものがなく恥ずかしく思っています。これまで、お菓子作りに関して誰かから教わったことはなく、全て独学によるものでした。ただ、好きな事には没頭する性分だったので、時間さえあればお菓子作りの本を眺めていたんです。お菓子作りを仕事にしようと思ったこともなく、趣味の一環として楽しむ程度のものでした。
もともとは管理栄養士だったとお聞きしました。
病院の管理栄養士として数年前まで働いていました。仕事として食事作りをする中で、西洋医学による栄養学の知識だけでは何かが足りないのではという考えを抱くようになっていきました。
というのも、栄養学は科学的根拠に基づく学問のため、炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル等といった大まかな栄養素の摂取バランスと、体重や性別に合わせたカロリーを数値として算出することはできますが、実のところ体質へのアプローチ方法は未だに確立されていません。栄養バランスの良い食事を作ることはできても、病気と診断されない体調不良や不定愁訴などを改善するための食事療法は存在しないに等しいのです。
一方、中医学に基づく薬膳は、体質・年齢・持病・季節・生活環境・地域など個々に合った食材や中薬を選択することにより、健康的な食生活の維持や疾病の治療を目的とするところにあります。まさに薬膳は、栄養学の足りない部分を補うことができる学問だと思いました。
インスタグラムの投稿が「季節の養生お菓子」の起点に
それがきっかけで薬膳を学び始めたのですか?
実は3年ほどは独学で薬膳の勉強をしていたのですが、いまいち理解が深まらないままでした。「何も知識を取得できず時間だけが過ぎて行ってしまう…」と悩んでいた頃に、ナチュごよみさんのHPを知り、ナチュごよみさんが薬膳を学ばれている本草薬膳学院で私も勉強してみよう!という決断に至りました。私の場合、通学でないと勉強が続かないと思い、山口県から福岡県まで通学していました。
本草薬膳学院で本格的に勉強を始めると、想像していたよりも難しくて。勉強の息抜きとして、現実逃避のように趣味のお菓子作りに没頭する時間が増えていきました。
またそのころ、薬膳に関する情報を広く集めたいという思いからInstagramを始めました。ご活躍されている方々の投稿を読んでは日々の勉強に役立てると同時に、自身が作ったお菓子を投稿するようになりました。
なぜお菓子作りに薬膳を取り入れようと思ったのでしょうか?
最初のきっかけは本当に単純です。趣味のお菓子を作っているうちに、勉強で得た薬膳の知識を反映させれば、私自身の薬膳への理解が深まると思ったんです。SNS上で共通の趣味や思考を持つ方々と広く繋がることができるとも思いました。そこで少しずつ薬膳お菓子のレシピを考えるようになっていきました。
それをInstagramに投稿すると、同じように薬膳を学んでおられる方々から心励まされる感想や、「食べてみたい」というお声を次々といただくようになりました。私も次第にそのお声にお応えしたいと思うようになっていきました。
本草薬膳学院での勉強を無事に終えて、中医薬膳師を取得してからは、よりいっそう薬膳お菓子を皆さまにお届けしたい思いが強くなりました。まずは「できることから始めてみよう」と、自宅の庭に4畳半ほどのプレハブ小屋を建て、必要最低限の設備を整えて、小さな菓子工房を造りました。そして、2021年3月から「食ノコト菓子工房」として開業し、季節の食養生に寄り添ったお菓子をお届けできるようになりました。
薬膳を学んだことで、今の活動はどんな風に変わりましたか?
実際に薬膳のお菓子を作っていくうちに、自分の考えが少しずつ確立していきました。一般的に、体に良いものを意識して食べるのは、「朝・昼・夕の食事やサプリメントから」という考えが主流だと思います。でも、私はお菓子からも体に良いものを摂り入れる習慣があっても良いのではないかと思うのです。
お菓子は、私たちの生活の中の楽しみの一つで、ストレスや疲れを癒してくれる欠かすことのできない大切な食事の一部です。栄養学的にエビデンスがある食材や、薬膳的な効果が期待できる食材を使って、お菓子からも習慣的に身体に良いものを取り入れられたら、より一層、私たちの生活は豊かになるのではないでしょうか。
薬膳を学ぶ前は、西洋医学による栄養学によって導き出された統計的な数値でしか人々の栄養バランスを考えられませんでした。しかしながら、中医学に基づいた薬膳を学んだことによって、一人ひとりにはそれぞれの体質があり、生活環境や季節でも必要な食べ物が変わることを知りました。 薬膳の知識を用いることによって、以前よりもより一層、食材を選ぶ際の取捨選択の幅が広がり、バリエーションも豊かになりました。
進むべき道は思いもしないところにある
活動でのエピソードがあれば教えてください。
始めたばかりの頃は、「食ノコト菓子工房としての薬膳お菓子」を作り上げるまで大変苦労しました。季節に合わせて薬膳食材を選び、それからレシピを組み立てていくのですが、使いたい食材の中には生薬特有の風味が強いものもあるため、薬膳とおいしさを両立させるのは至難の業でした。
一つのお菓子が完成するまでに、何度も試作を重ね、中には10回以上作り直したお菓子もありました。でも、苦労すればするほど、イメージの味に完成した時は本当にうれしくて、一日でも早く皆さまに届けたい思いでいっぱいになりました。全てを一人で切り盛りすることは、工房を始めてから慣れるまで想像以上に大変でしたが、たくさんの方の心温まるお言葉に励まされて乗り越えることができました。
皆さまの心身のご健康と、笑顔でおいしく召し上がっていただきたいと願いながらお菓子を作ることは、これ以上ない幸せです。大変ではありましたが、頑張って工房を始めて良かったなぁと強く思います。
これから薬膳を学ぶ人、活動をする人に向けてアドバイスをお願いします。
私自身まだまだ薬膳の知識が足りないと実感しており、さらに学びを深めていく必要があると考えています。ですのでアドバイスできる立場にはないと思っております。
本草薬膳学院を卒業してから、かれこれ2年近く経ちますが、受験予定だった国際薬膳師の試験は、コロナの影響で未だに受験できていません。泣く泣く試験を断念した頃の私は、先のビジョンが全く見えずに不安でいっぱいでした。薬膳を仕事にしたい思いはありましたが、とりあえずは国際薬膳師を取得することを目標にしていたので、その先のことまでは考えていませんでした。
しかしながら、足踏みしていられるほど現実は優しくはありませんでした。時間ばかり過ぎていくことをもどかしく思い、焦りは募る一方でした。今の私に何ができるだろう?と、新たに考え直すことを繰り返していくうちに、これまで一つひとつ作ってきた薬膳お菓子こそ、私の極めるべき道なのかもしれないと考えるようになっていました。
ひょっとしたら、最初は全く思いもよらなかったところに、進むべき道は切り開かれているかもしれません。私のように、何の気なしにコツコツと続けてきたことが仕事になることもあるのです。
白石さんにとって、薬膳とはどんな存在ですか?
薬膳とは、心身の健康を守る可能性を秘めた希望の存在です。栄養学と薬膳の両者を使いこなせるようになれば、それぞれに足りない部分を補い合うことができるようになると考えています。そのことによって、不定愁訴などの心身の不調から慢性疾患で苦しむ人々を一人でも救えるのではないでしょうか?
今後、薬膳の勉強を深めていくとともに、得た知識を活かしながら、一人ひとりのご要望に合わせた食ノコト菓子工房のお菓子をお届けできるように日々進歩していきたいと思っております。
ありがとうございました。
子どもの頃から好きだったお菓子作りと、栄養学の知識、そして薬膳の知識が出会うべくして出会って生まれた、食ノコト菓子工房。薬膳の可能性を感じ、時に焦りながらも、インスタグラムで応援してくださる人の言葉に応えたいという白石さんの素直な気持ち、そして食べる人の健康と笑顔を願う心が活動の原点となっていました。白石さんの生き方は、ご自身の作るお菓子のような優しさとまっすぐな思いにあふれています。
「お菓子に薬膳のエッセンスを…。」食ノコト菓子工房は、薬膳の知恵を借りて、今の季節に食べていただきたい食材をたっぷりと加えた養生お菓子を作っております。一から手作りをモットーに、着色料や香料は一切使用しておりません。自然の美しい色・味・香りを感じていただけたらうれしいです。
食ノコト菓子工房 白石めぐみさん
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