- つばめ薬膳アカデミー主宰
- 渡辺真里子さん
- 国際薬膳師、国際中医師、本草薬膳学院認定講師、中級評茶員、日本国際薬膳師会理事。薬日本堂漢方スクール、本草薬膳学院の講師を務めながら、薬膳のプロを養成する「つばめ薬膳アカデミー」を2018年にスタート。薬膳の基本知識を身につけ資格を取得した人が、さらに知識を深めスキルを高めたいと訪れる教室です。
- 公式サイト⇒https://tsubameyakuzen.com/
薬膳の知識を生かして活動や仕事をする人にインタビューする「薬膳と生きる人」シリーズ。今回は、薬膳講師&薬膳コンサルタントで、私の恩師でもある渡辺真里子先生にお話をうかがいました。前編では薬膳講師についてお届けします。
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マーケティングの仕事を経て薬膳の世界へ
◆薬膳講師以前のお仕事は何をされていたんでしょうか?
数社で働きましたが、いずれも消費者の声を聞く仕事に携わってきました。薬膳と出会った時には、メーカーの商品開発サポートをする東京のマーケティング会社で働いていました。グループインタビューなどで消費者のお声を実際に聞いて、クライアントに報告するという消費者リサーチがメインの業務です。
忙しさとプレッシャーで体調を崩してしまい、たまたま飛び込んだ漢方薬局で漢方薬に出会いました。出してもらった漢方薬に助けられ、同時に中医学の考え方に衝撃を受け、興味を持ったことが薬膳を学び始めるきっかけになりました。
そこからどんどん中医学・薬膳の考え方にのめり込み、一時は3つの学校に通いながら、2010年には国際薬膳師、国際中医師、漢方臨床指導士と3つの資格を一気に取得しました。この年が私のターニングポイントになりましたね。
◆薬膳講師へはどのような経緯で?
薬日本堂漢方スクールに通っている時、ちょうど漢方養生指導士養成講座の大阪校講師が退職されることになり、代わりにやってみないか?と。
それまで私は薬膳講師をするつもりはなかったんです。漢方や中医学の考え方を広めるような商品作りの仕事がしたいと考えていたし、教えることは自分に向いていない、相談員の経験がないとできないと思い込んでいたんですよ。でも恩師が声をかけてくださったこともあって「これはやらないといけない」と腹を括りました。
◆成績優秀だったから抜擢されたのでしょうか?
というよりも、薬日本堂での授業中に、チームごとに取り組むような作業があったんですよ。私は前職でワークショップなどを主催していたので、こうしましょう、ああしましょうというふうに場を仕切っていて。それを先生が見て「こいつ仕切り屋だな、講師ができそうだな」というのがあったんじゃないかな(笑)。
◆もちろん理論の知識をお持ちで、その上に前職のご経験があったからですよね。
長く通い続けていたことも大きかったと思います。薬日本堂の東京校で基礎コースとアドバイザーコースを受けて、転勤で大阪に戻った後は大阪校で薬膳コースと漢方臨床指導士養成講座を受けてと、しつこく切れ目なく通っていたんです。当時はそこまで長く通う人はあまりいなかったんですよ。
◆その後、本草薬膳学院の大阪校の講師も担当されました。
薬日本堂の講師をしていた実績と、本草薬膳学院の研究科に通っていたことからお声がけいただきました。
本来、午前の理論授業は学院長が東京から来られ、就任1年目の講師は見ていることになっていたのですが、私の場合は初回から授業をすることになり…焦りました。いきなり崖から突き落とされた気分でしたね(笑)。
学ぶことと教えることの違い
◆勉強することと、教えることは違いますよね。講師の準備はどうされたんでしょうか?
まず、薬日本堂で講師をすることが4月に決まってから担当のクラスがスタートする10月まで、欠席された方用のビデオを研修代わりに見て研究しました。
同時に、講師の勉強をするために本草薬膳学院の研究科に通いまくりました。「自分だったらどう伝えるか」「五臓はこう言えばわかりやすいなあ」「あ、これいただき!」とか(笑)。完全にどこをパクるかという「伝える側の耳」で授業を聞いていましたね。
◆パクるというと抵抗がありそうですが(笑)。
だって新たに理論の伝え方を考えろと言っても無理や!と(笑)。 それなら、いいところをパクらせてもらおうと思ったんです。もちろん完全に同じようには言えないので、先生方の説明を参考にして、そこに「渡辺風味」をプラスしてお話しするようにしました。さらに工夫したのが、自分の実体験や発見をまじえた「例え話」を入れることです。
例えば、脾胃の運化の話。脾は水穀精微(栄養物質)を心肺に持ち上げるじゃないですか。「脾というのは佐川のお兄さんみたいな感じだよ」と。マンションの1階から10階まで荷物を持って上がる力持ちなんですけど、お兄さんが疲れたら荷物が持ち上がらないですよね。それが脾気虚で、荷物が溜まると下痢になるんです…というような話をすることで、イメージしてもらいやすくしています。
◆冬の体は機密性が高い家と同じというお話も印象的でした。
「夏の体は毛穴が開いて風通しがいいけれど、冬は毛穴を閉じて寒さを逃さないようにする。機密性の高い家と一緒」という話ですよね。あれはブラインドを見て思いつきました。こういう例え話は日常生活の観察から生まれます。職業病じゃないけれど、いつも考えていますね。
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◆薬膳理論を伝える上で一番大事だなと思うことは?
自分が体感したことをいかに理論と結びつけてお伝えするかですね。中医学自体が机上の空論じゃなく、もともとは日常生活の観察の中から生まれてきたものですよね。中医学の難しい理論も、本来は一般人でも感じられることのはず。だから自分の生活や体調にどう当てはまるのか、どう落とし込むのかを考えて、それを伝えることがすごく大切だなと思っています。
◆講師をしたことで得られたことはありますか?
やっぱり、人に教えることで自分が一番勉強になりました。それまではインプットの耳で聞いていたのが、伝える側になったからこそアウトプットするために聞くようになった。自分がどう教えるかという視点で見るようになったんですね。
インプットとアウトプットの両方を行うことで知識の吸収率が高まりました。インプットが陰で、アウトプットが陽。調和したら新たなモノが生まれる。それこそ陰陽の話だ!と。後から気がついたんですけどね(笑)。
◆教える側になって、何か変化したことはありますか?
教える側になったからこそ気づくことが多くて、「あれ?これはどういうことだろう?」という部分がたくさん出てきましたね。
また生徒さんから質問を受けるようになり、その人の理解度がわかるようになったんです。「この人はここまで理解しているからこそ、今の質問が出てきたんだな」とか。そういう質問は、すごく勉強になるんですよ。
◆先生は数々の学校で勉強し、期間的にも長く勉強されてから講師を始められましたが、一般的に薬膳講師をする場合、どれくらいの勉強が必要だと思いますか?
個人的には、基本は国際薬膳師レベル(1〜2年で修了)の知識は持っていたほうがいいと思います。もちろん3か月ぐらいのコースを修了して教えるのもいいと思います。教えることも経験になりますし。そこで足りないと感じれば、また勉強すればいいですよね。
教えることは、自分の自信との比例だと思うので、ある程度の知識を持っていた方がいいよねとは思います。
◆薬膳講座は、料理中心の教室あるいは座学中心の教室がありますが、料理中心の教室でも薬膳理論を伝えた方がいいと思いますか?
料理重視の薬膳教室はもちろん料理中心になると思いますが、基本的な薬膳理論をお伝えしないと、大事な薬膳ポイントやありがたみが伝わらない。それってすごくもったいないことじゃないですか。
飲食店は非日常を提供する場なので、ある程度おいしさ重視の薬膳になるのはいいと思うんです。でも教室で出す薬膳は、習った人が家の献立に取り入れて養生に役立てるものなので、効果が担保できないとダメだと思うんですよね。だから料理教室で教える人ほど、理論的な薬膳レシピの立て方を勉強してほしいなと思っています。
資格を取った後、薬膳をどう生かしたらいいんだろう…。インタビュー後半では、そんな悩みに応える渡辺先生の活動についてお伝えします。後編もぜひお楽しみに。
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